「じゃあねえ!アイツによろしく〜〜!」 飛空挺のホバリング音にも負けない音量で、リュックの声が上空から振ってきた。 ハッチを閉じ上昇を始めるカモメ団の母船を見上げ、ユウナは手を振り返した。 promenade to you白い軌跡をひいて真紅の機体が飛び去った後、空には再び静けさが戻った。 鮮やかなセルリアンブルーの風切り羽を陽光に光らせながら、何事もなかったかのようにスピラカモメが悠々と舞う。 ブリッツトーナメントのシーズンを迎えひときわ陽気な喧騒に包まれた、スピラ一の歓楽都市ルカ。 「…来ちゃった。」 事の発端は、今朝リュックがビサイド村へひょっこり顔を出したことにさかのぼる。ビサイド村へマキナを搬入したついでに寄ったのだそうなカモメ団の敏腕ハンターは、留守番しているユウナを半ば引きずるようにして連れてきてしまったのだ。 「ミヘン街道へ寄るついでに、埠頭脇で下ろしてあげるよ。ほら早く仕度してして!」 それからは、あっという間に空を飛び越える短い旅。アニキが再会の喜びを表現した奇天烈なダンスを踊る間に、セルシウスはルカへと到着した。 そしてユウナは今、彼のいる街に降り立っていた。 突然会いに行ったら、キミはきっとびっくりするよね。 驚く恋人の顔を思い浮かべると、喜びに胸が高鳴った。 「今なら、スタジアムへ行けば会えるかな。」 ユウナは両手を組み大きな伸びを一つしてから、スタジアムへと歩き出した。 港の案内を兼ねた電光掲示板に、第一試合の結果速報が流れている。 「2−1か。勝ったんだ。」 視線を走らせうなずいたユウナは、そこでふと気がついた。それはつまり、自分が今からスタジアムに向かっても遅いということだ。 試合が済めば、選手は長くスタジアムに留まらない。特に人気選手はファンにもみくちゃにされるリスクを避けて、気付かれないよういつの間にか退出していることが多い。 ましてや、今日は約束している訳ではないのだ。スタジアムに向けていた足をふと止めて、しばしの間考えた。 トーナメント中のスケジュールを細かくは知らない。いる可能性が高いのは、ビサイドオーラカがトレーニング場として使っている入り江だろうか。昼が近いから、何処かの店へ昼食を取りに行っているかもしれない。 早く会いたい気持ちは膨らむばかりだったけれども、不思議とはやる気持ちはなかった。探し出せなくても最後は彼のメゾンで待っていれば夜には会えるのだし、せっかくだからのんびり散策を楽しむのも悪くない。 そう考えて、ユウナは山の手へ足を向けた。 久しぶりにひとりで歩く街は、どこか澄まし顔。華やいだ期待感に彩られて、知らない場所のように新鮮に感じられる。 立ち並ぶ店のショーウィンドーを眺めて歩く。雑貨屋のディスプレイを覗き込んでいたユウナは、こぢんまりと飾り付けされた籐かごの辺りに何か小さな影が重なったのに気がついた。大きなガラスに生き物の姿が映っている。 驚いて振り向いたユウナの目に、猫の姿が実像を結んだ。 毛並みはグレーと白の上品な縞、じっと見上げる瞳は涼しげな青と輝く黄金のオッドアイ。 ユウナと同じく色違いの目を持つ猫は、見上げたまま一声鳴いた。 「ニャア。」 それからユウナの足元まで寄ると、甘えた声を出しながら何度も彼女の足に脇をすりつけた。 「うふっ、くすぐったい。」 しゃがみこんだユウナは手を伸ばして、毛づやの良い背中を撫でてやった。短毛種特有の滑らかでいてしっかりした毛足の感触だった。ベルベットのような手触りが、小さな命の温かみと共に彼女の掌に伝わった。 |
![]() ユウナ=神崎誠 ニャンコ=カル |
「お前はこの街に詳しい?」 猫は利口そうな瞳を向けると、ほんの少し首を傾けた。 「人を探しているの。えーと…」 とびきり晴れた空の色をした目と明るい金髪をしていて、太陽みたいに笑う人。 周りの誰にも聞こえないような小さな声で教えてやりながら、ユウナは猫の喉元をくすぐった。 キミは、傍にいるって、きっと大丈夫って約束してくれたから。だから今は離れている時があっても不安は感じないんだ。 スピラのどこにいても、同じ空で繋がっているから。 でも別のことが私を悩ませる。 思い浮かべるたび、キミを好きな気持ちがますますいっぱいになって溢れそうなの。 キミを驚かせたい。今すぐキミの眩しい笑顔に会いたい。 されるがままになって、大きな目を細め喉を鳴らしていた猫は、ユウナの気持ちを知ってか知らずか一声長く鳴いた。 「ミャーオ。」 それからおもむろにのびをすると通りを歩き出した。まるでついて来いとでもいうように、4、5歩ほど歩いた所で振り向く。 行き先を尋ねる必要は、なかった。ついて行く根拠を探す理由も、必要なかった。 浮き立つ気分のままに、ユウナは猫の案内に従った。 柔らかな光を含んだ彼の金髪は、かっきりと青いルカの空によく映える。 この巨大な街で、こうも簡単に捜し人を見つけられたことに、ユウナは驚きを隠しきれないまま傍らの案内者を見つめた。 謎めいた光をたたえたオッドアイが見せる表情は、相変わらず哲学者のように静かで。けれどもふっくらとした頬から伸びるヒゲが、少しだけ得意そうに揺れたのは気のせいだろうか。 海を臨むビルの一角から出てきたティーダは、遊歩道への階段を踏んだ所でこちらに気がついた。 「ユウナ!」 ただでさえ目を引くブリッツ界のエースは、周囲の耳目もお構い無しに大声を上げた。片手どころか両手を挙げ、それからもう一分一秒でも待ちきれないようにして手すりを飛び越え駆けて来る。 「どうしてここに!?いや、そんなことはどうでもいいッス!」 踵に翼が生えているかのような勢いで飛んできた彼は、そのまま放っておけば公衆の面前で抱擁シーンを披露しかねない。 それよりもっと怖いのは、恥ずかしさよりも会えた嬉しさが勝ってしまい、自分が彼の胸に飛び込んでしまいたい衝動にかられていたことだった。 とっさに自制心を働かせたユウナは、恋人の日に焼けた逞しい腕を自ら取った。そうして並ぶと絡ませるようにして手を繋いだ。 半瞬ほど驚いたような彼の表情は、すぐに輝くばかりの笑顔に取って代わった。重ねた掌を包むようにして強く握り返す。 「すっげぇ嬉しい!こんな所でユウナに会えるなんて。」 「私も。会えて嬉しいよ。リュックが送ってくれたんだ。」 陽光に晒されたティーダの髪から、ほのかに潮の香りが漂った。 |
![]() ティーダ=神崎誠 ユウナ=カル |
「今日は試合した後、鬼監督のせいでまた練習があってさ。こっちはその後もう一仕事控えてたってのに。」 「仕事って?」 「ああ、もう終わった。リンに呼ばれてたんだ。出来たばっかりの新しいオフィスにさ。」 彼はそう言って今しがた出てきたビルを指差す。海に向かって翼を広げたような姿をした建物を、ユウナは眩しげに見上げた。 「それにしたって、よくここが分かったな。ワッカに聞いた?」 ティーダが尋ねる。 「ううん。この子が連れてきてくれたの。」 「この子?」 そう言われて初めて、彼はユウナの足元で退屈そうにあくびする猫の姿に気がついた。 「へえ、こいつの目オッドアイだ。」 ユウナと同じ、左右色違いの宝石をはめ込んだみたいに綺麗な眼。 何か分からないけど…オレの知らない謎めいた力を本当に持ってるんだろうな。 オレとユウナを会わせてくれて、感謝してるッス。 そのオッドアイには、世界はどんな風に映ってるんだろう。 もしかしたらユウナも、オレの目に映らないものまで見えてるのかもしれないな。 そう思えるほど、ユウナの眼差しは全てを包み込むほどに優しい。 背をかがめて覗きこむ彼の視線を、猫はうるさげに撥ね付けてそっぽを向いた。そっけない仕草に、ティーダは目許をくしゃりと笑ませた。 「愛想のないヤツ。」 下された評価を歯牙にもかけない様子で猫はユウナの足元にもう一度擦り寄った。長い尻尾が優雅に揺れる様は、別れの名残を惜しんでいるようにも見える。 それから猫はくるりと二人に背を向けた。自分の役目は終わったかとでも言うように、振り向きもせずあっという間に路地へと消えていった。 「ありがとう。」 「ありがとな。」 見送る二人に、今日の出会いを演出した者の姿は既に見えなかった。 会いたい気持ちは、偶然と必然を、横たわる障壁もまとめて一気に飛び越える。 こんなに粋な計らいをしてくれる存在を、何と呼ぶべきか言葉が見つからない。 感謝の言葉を胸の中でもう一度あの不思議な猫に捧げながら、ティーダとユウナは見詰め合い、微笑みかわした。 -FIN- |
カリフラ様2万HITの捧げ物ということで、KARUさん神崎さんと企みを開始したのですが…(笑) いやほんと粉さんちカウンターの回り方早いっす。対するどれみの作文速度が遅すぎ…ゲフン。 今からだとむしろ、〜Wieder〜お疲れ様打ち上げ記念ですね。(こじつけ気味) とにもかくにも粉リーダーは偉大だ。 ::おまけ:: 「ところで、リンさんと何の秘密会談をしてきたの?」 「スフィアブレイクのイメージキャラクターをやらないかってさ。」 「へえ、じゃあせめて私を負かすくらいには強くなくちゃね。」 目の覚めるようなウィンクに一瞬見惚れていたティーダは、慌てて降参のポーズをとった。 「冗談きついッス。あのシンラを負かしたこともあるんだろ?いっそのことユウナが引き受けろよ。」 「あははっ。」 鈴を転がすような声を立ててユウナは笑った。 「それはともかく、ご飯食べたらスフィアブレイクしに行こうよ。コツを教えてあげる。」 「はーい!」 ↑最後の「はーい!」が書きたかっただけ…(アホウ) (04.04.01 文: どれみ 画:神崎誠&KARU ) |